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【考察】高松美咲『カナリアたちの舟』レビュー セカイ系メリバSF!ラストはどうなったのか?ユリと千宙の関係は?【ネタバレあり】

高松美咲『カナリアたちの舟』の考察・紹介記事です。

『スキップとローファー』で高松美咲を知り、過去作品が気になっている、という方の参考になれば幸いです!

 

カナリアたちの舟 (アフタヌーンコミックス)

 

 

 

 

◆作品情報

  • タイトル:カナリアたちの舟
  • 著者:高松美咲
  • 出版年:2016年
  • 掲載雑誌:アフタヌーン(講談社)
  • ジャンル:SF、セカイ系、サバイバル、ヒューマンドラマ


◆『スキップとローファー』との比較

Amazonのレビュー等を見ると、スキップとローファーのほのぼのを期待して買った層から「思ってたのと違う」「ジャンルの振り幅がすごい」といった内容が散々書かれています。

実際その通りで、スキップとローファーと同じ作者が描いたとは思えない難解なラストと壮大なストーリーのため、「スキップとローファーに似たものを期待してると裏切られる」といえるでしょう。

ですが、個人的には、本質的なテーマは同じだなと感じました。

主人公の女子高生・ユリは「思い描いてきた明日には不安以上に期待があった」と独白します。

もう一人の主人公である薬剤師・千宙は「もうどこにも行きたくないし何も感じたくない」と語ります。

未来にあふれた高校生のみつみと、大人になってみつみを眩しいと思うナオちゃんの関係に似てる気がしませんか?

こういうスタンスの二人が、異星で二人きりで暮らすのです。

そこで生まれる物語です。

 

カナリアたちの舟 (アフタヌーンコミックス)

 

 

◆千宙の言動について

情緒的思考を持たない生物にしては、千宙の言動が理屈的でないなと感じませんでしたか?

私はそこに違和感があったのですが、何度も読み返すうち、「こういうことなのかな?」と納得ができました。

物語中盤、森の管理システムと千宙の会話に、このような発言が出てきます。

千宙「まるで感情があるみたいだ」

管理システム「統括する物が巨大だとある程度の自我は生まれるものだよ」

(高松美咲『カナリアたちの舟』)

脳の支配を離れて自分で判断・行動しなければならなくなった千宙に自我が芽生えるのは、おかしいことではないのですね。

 

彼らは地球人の生態を知ることを娯楽としており、地球人を飼育する計画まで立てていました。

「地球人の反応を見るために演技をする」という一見情緒的に見える行動は、私たちが赤ん坊に「いないいないばあ」や犬に「とってこーい」としているのと同じなんだろうなと思います。

千宙はユリの埋葬を見て“学習”し、放置していた死体をわざわざ後から埋葬するなど“実行”する描写もあります。

また、千宙はユリ以前の3人から「地球人はただひたすらにまわりくどい」と“学習”していました。

千宙の行動がまわりくどいのは、千宙が地球人に近づいているという示唆だったのかもしれません。

 

◆ラストでユリはどうなったの?

ユリは地球人たちを目覚めさせた後、千宙と同様、自害しました。

ラストに実際にそう書かれています。

「彼の作った物語の幕を閉じなければならない」

「そして誰にも語らない」

(高松美咲『カナリアたちの舟』)

この「彼の作った物語の幕」というのは、千宙が語っていた「舞台の幕が開く。あんたはその4人目」のことです。

千宙はこれまで、“もうひとり”を起こすことで幕を開け、“もうひとり”が死ぬことで幕を閉じてきました。

「彼の物語の幕を閉じる」というのはつまり、ユリの死を示しています。

 

カナリアたちの舟 (アフタヌーンコミックス)

 

 

◆これはハッピーエンドなのか

何をハッピーとするかの基準にもよりますが、私の感覚から申し上げますと、これはハッピーエンドではありません。俗に言うメリバが1番近いのかなという解釈です。

地球人たちを放たなければこの惑星は緑豊かな美しい星のままでした。

地球人たち自身も、混乱し絶望を味わうでしょう。千宙のような案内役もおらず、答え合わせができないのですから。

目覚めさせない方が、惑星にとっても地球人たちにとっても幸せだったと言えます。

何も事情を知らない地球人たちがこの先どうやって生きていくのか。果たして生きていけるのか。

しかし、

「ガッカリすることになるかもだけど、いーよ別に。この期待のおかげで今立って歩けてるんだから」

(高松美咲『カナリアたちの舟』)

という言葉からもわかる通り、ユリはひたむきに前向きで、地球人たちが立って歩くことを願いました。ひとりきりじゃなければ期待を持って生きていけることを、ユリは知っているから。

「これが正しいことだと言い切るにはあまりにも今この星は美しく」

「ただ寂しさだけに突き動かされていた」

「朝がくる。途方もない明日を連れて、誰の前にも」

(高松美咲『カナリアたちの舟』)

このラストの言葉を、私はそういう意味で受け取りました。

 

◆2人の感情は恋だったのか

千宙については、明確に恋ではなかったと考察しています。まだ恋という感情を学習してなさそう、という意味で。

広義的には恋だったんだと思います。

繁殖システムを見つけて真っ先にユリが好きだと言っていた花を繁殖させ、しかもそれをあえて内緒にして、育ったころにサプライズさせようなんて、「地球人はひたすらにまわりくどい」が過ぎますよね。

このまわりくどいことを楽しんでる自分に気付いたときが、千宙の恋なのかもしれませんね。

 

ラストに千宙が打った注射がどんな効果で死ぬものなのかわからないのでなんとも言えませんが、死に際に百合の花の庭に向かったのは“元の姿に戻った千宙”なので、北沢千宙の執念ではなく自分自身の意思だったと解釈できます。

であれば、千宙は充分地球人同等の情緒を得ていて、もう少しでユリと千宙は「絶対にわかりあえない種族」ではなくなってたかもしれません。

ユリが隠し部屋を見つけなれば。

千宙が百合の花の庭を見せていれば。

ユリが千宙を好きになるのは時間の問題でしたし、千宙はそんなユリから恋愛感情を学習していただろうと思います。

そんな未来もあったかもしれない。ターミナルで眠る地球人たちを見つけることもなく、ずっと2人で、この美しい星で、期待だけ抱いて。

 

◆まとめ

スキップとローファーのような日常の幸せをかみしめる作品がお好きな方には肌に合わないかもしれません。

しかし、セカイ系が好きな方には絶対におすすめできる作品です!!

 

カナリアたちの舟 (アフタヌーンコミックス)